[ 重要生息地ネットワーク ] | [ 日本鳥学会 ] | [ 環境省「インターネット自然研究所」 ] |
第二十六回 国際鳥類学会議
ラウンドテーブル06
森口紗千子(現所属 新潟大学大学院 自然科学研究科)
転載元:
森口紗千子(2015)IOCのラウンドテーブルディスカッションを終えて.日本鳥学会誌64:96-97.※著作権は日本鳥学会に帰属します.日本鳥学会編集委員会の許可を得て転載.
現在私たちは,日中韓を中心としたガンカモ類研究者で公開されているモニタリングデータ等を活用した共同研究を進めています.2014年のIOC東京大会において,この東アジアにおける水鳥類モニタリングデータの共有プロジェクト(Cooperative project for sharing monitoring data of wildfowls in East Asia)についてのラウンドテーブルディスカッションを開催したので報告します.
今回のラウンドテーブルディスカッションの目的は,まず本プロジェクトを紹介し,各地域の研究者による保全上重要な種や生息地の提案などの情報交換を行ない,そして今後の協働体制の方針についての議論することです.プロジェクトのメンバーは日中韓の越冬・中継地の研究者が中心になっていますが,東アジアに生息するガンカモ類の主な繁殖地であるロシアの最近の生息情報を知る機会があまりなかったため,ロシアの研究者にも発表をお願いし,話題提供者は中国から1名,韓国から1名,ロシアから1名,日本から2名の総勢5名となりました.当初はシンポジウムとして準備しましたが,地域を限定したために却下されてしまったので,ラウンドテーブルディスカッションに変更して再度申し込みました.
シンポジウムを申し込んだ時期はまだIOCの開催からは間がありましたが,いざIOCが近づいてくると,発表者のスケジュールが埋まってしまうこともあり,当初予定した発表者のうち,ロシアと韓国からの2名が欠席することになってしまいました.ロシアの方はIOCに参加を予定していた別の研究者を紹介してくださったので,ガンカモ類の専門家ではなくなりましたがロシア人の代役をたててもらうことができました.韓国の方には発表ファイルを提供してもらい,私が代読することになりました.
大会が始まっても6日目の本番までは時間があったので,2日目にとりあえず顔合わせで集合し,全員で流れを把握しました.代役をお願いしたロシアの研究者はまだ発表ファイルが届いていないというハプニングに見舞われていましたが,本番には間に合うだろうということでした.
ラウンドテーブルディスカッション当日.偶然会った発表者から,会場が変更になったとインフォメーションに貼り出されていたと聞きあわてて確認すると,もっと大きい部屋にしてほしいと,どなたかの依頼があったとのことでした.新旧会場付近にはたくさん会場変更の貼り紙をしていただいていました.
ラウンドテーブルディスカッションでは,趣旨説明の後,バードリサーチの神山さんよりモニタリングデータ共有プロジェクトの内容を話していただきました.ガンカモ類のモニタリングは各国で毎年行われていますが,例えば韓国で減り日本で増えているコハクチョウのように,各種の増減傾向は国間で異なる種も見られます.そのデータをフライウェイ全体で共有することにより,東アジア個体群の動態の把握を進めたいという内容でした.次に飛び入りで東アジア−オーストラリアフライウェイパートナーシップのSpike Millingtonさんより,東アジアフライウェイにおける協働の重要性を話してもらいました.その後は各国の研究事例紹介へと移り,初めに私より東アジアのマガンは遺伝構造の違いにより,保全管理個体群が日韓と中国で異なる可能性が高く,別々の個体群として保全管理する必要があることを提案しました.次に共同企画者である中国科学院のLei Caoさんより,彼女らが構想しているガンカモ類を含む18種の鳥類追跡ネットワークの紹介がありました.三番目はBirds KoreaのNial Mooreさんの発表の代読で,韓国のモニタリングデータに基づいた鳥類のレッドリスト作成と,その掲載種であるコクガンやコウライアイサなどのガンカモ類について紹介しました.最後はLomonosov Moscow State UniversityのAnastasia Popovkinaさんより極東地域の繁殖地におけるガンカモ類とその保全上の問題点について話されました.繁殖地から見た重要種には,サカツラガン,アカハジロ,トモエガモなど,中国や韓国に主な越冬地をもつガンカモ類が挙げられました.ロシアではモニタリング体制の不備,狩猟の影響評価不足や規制が課題とされているそうで,東アジア全域の主要な越冬・中継地とモニタリングネットワークを構築することを提案されました.
総合討論では,保全上の重要種と重要個体群について,キンクロハジロなど、東南アジアでも越冬するカモ類の情報収集も必要であること,一番数の多いマガモがアジア全域で減少していることは見過ごせないこと,アジア各国の重要種の情報を載せたウェブサイトが必要であることなどが話題に上がりました.情報共有システムについては,リアルタイムで生息地情報がわかるウェブサイトもしくは各国の関連サイトをまとめたポータルサイト,重要種のフライウェイレベルでの長期的な研究計画を立ち上げについて議論されました.消灯時間ぎりぎりで会場係に追い出されるまで議論は尽きず,これらの議論は2014年11月に北京で開催される第16回ガン類専門家グループ会議(GSSM)へと引き継がれることになりました.
今回,把握できた範囲では発表者含めて6カ国26名の方々に参加していただきました.東アジア地域からの参加者は25名で,そのうち24名は英語を公用語としていない地域の方々でした.そのため意思疎通が難しい場面もありましたが,アジアで開催されるIOCで東アジアのプロジェクトを各国代表者が紹介し,当事者や周辺国研究者で議論する,という意義深いイベントを無事終えることができました.これを皮切りに議論を続け,東アジア地域における共同研究等をさらに活発化していきたいです.今回は東アジア地域だけでしたが,ガンカモ類の保全管理をフライウェイ規模で推進している欧米の事例から東アジア地域での保全の方法を考える機会があれば,協働体制などのヒントがあるかもしれませんので,今後の課題にしたいと思います.ガンカモ類重要生息地ネットワーク支援・鳥類学研究者グループ(JOGA)のホームページ ( http://www.jawgp.org/anet/ioc2014rtd06ja.htm)には本ラウンドテーブルディスカッションの趣旨と各発表者の要旨を和文と英文で掲載していただきましたので,興味がありましたらぜひ覗いてみてください.
最後に,ラウンドテーブルディスカッションを盛り上げてくださった発表者,参加者,企画から運営までご協力いただいたJOGA関係者,そして会場などご配慮いただいた事務局の皆さまに改めて御礼申し上げます.
[第18回(JOGA後援) 第二十六回 国際鳥類学会議 ラウンドテーブル06「東アジアにおける水鳥類モニタリングデータの共有プロジェクト」2014年8月23日]
[ 重要生息地ネットワーク ] | [ 日本鳥学会 ] | [ 環境省「インターネット自然研究所」 ] |
URL: http://www.jawgp.org/anet/ioc2014rtd06rpt
2015年9月13日掲載,
JOGA.