水鳥の生息数が示す琵琶湖の国際的重要性
1%基準に注目しよう!

琵琶湖水鳥研究会 1999年10月


 秋になると、北国から多数の水鳥が渡ってきて琵琶湖で越冬します。水鳥の中ではガンカモ科の鳥が特に多く、表1には、琵琶湖全湖で越冬するガンカモ科の水鳥の数を示しました。たいへん興味深いことに、ラムサール条約は、その湿地がどのように国際的に重要なのかを認識するために,その湿地に生息する水鳥の数による基準を決めています(ラムサール条約第4回締約国会議第2勧告文付属書に書いてあります)。水鳥の生活は湿地と深い関係があり、また水鳥の生息数は、人々が楽しみながら比較的簡単に知ることができる値です。

 そのような基準のひとつは、20,000羽以上の水鳥が定期的に渡来することです。琵琶湖の場合、ガンカモ科の水鳥だけで78,000羽が渡来することが確認されましたので、渡来する水鳥全体の数によってまず国際的に重要であるということが認められるわけです。

 もう一つの基準は、「1%基準」と呼ばれているものです。特定の種(または亜種)の個体群全体の大きさの1%以上の数の個体が定期的に渡来することです(個体群とは,種や亜種など同一の性質を持ち、遺伝的にも交流のある個体の集まりです。種や亜種全体をひとつの個体群と見なす場合もありますが、標識鳥の移動経路の調査などの結果、地理的に複数の個体群にわける場合もあります)。

 例えば、ある種の個体群の全数が100万羽だったら、その1%の1万羽以上の生息を支えている湿地は、国際的に重要な湿地と言えるというわけです。このような種が少なくとも1種あれば、条約の登録湿地となる要件を満たします。

 琵琶湖は、表1に示すように5つもの種(コハクチョウ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、ホシハジロ、キンクロハジロ)の生息数が1%基準を越えており、琵琶湖が水鳥にとって国際的にたいへん重要な意義を持っている湿地であることが確認されています。また、表1に付記したように、日本全体に渡来する数の1%値を越える種も9種あります。

 1999年2月7日におこなわれたワールド・ウェットランド・デイin琵琶湖における取り組みの『琵琶湖一周水鳥カウントライブ』によって、調査は短時間でしたが、表1に示すようにこの基準を越える水鳥の数を確認することができました。琵琶湖が国際的な重要な湿地としての特性を維持しているかどうかを確認するためにも、今後とも水鳥の個体数の調査結果に注目する必要があります。

(琵琶湖水鳥研究会 須川 恒)

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表1.琵琶湖のガンカモ科水鳥の個体数とラムサール条約の基準
[判定] ◎:国際的基準を越えるもの/○:国内的基準を越えるもの

種(亜種)

※希少種
○狩猟鳥

1%基準個体数

滋賀県
琵琶湖
672.8 km2
1989, 94年
須川 1995


滋賀県
琵琶湖
672.8 km2
1999年
2月7日


東アジア
個体群

日本の
越冬数

ガンカモ科個体数

20,000

10,000

78,000

30,604

基準による判定

国際的基準を越える ◎

5種

1種

国内的基準を越える ○

9種

10種

オオハクチョウ

300

300

6




※コハクチョウ

300

260

300

155


※亜種オオヒシクイ

1,000

50

390

118

※亜種ヒシクイ

750

50





※マガン

500

300

20




※コクガン

50

40

1




※ツクシガモ

600

10





※オシドリ

500

190

58


50


○ヒドリガモ

10,000

1,700

14,600

10,205

○ヨシガモ

10,000

90

1,200

182

オカヨシガモ

1,000

150

5,960

640

※トモエガモ

1,050

12

1


20

○コガモ

10,000

1,900

1,790


1,661


○マガモ

20,000

5,000

8,670

1,720


○カルガモ

10,000

2,200

3,570

2,116


○オナガガモ

10,000

2,000

930


864


シマアジ

10,000

---





○ハシビロガモ

10,000

210

440

448

○ホシハジロ

10,000

1,800

25,320

4,494

○キンクロハジロ

10,000

800

13,480

7,562

○スズガモ

10,000

1,800

330


112


コケワタガモ

10,000

---





※シノリガモ

1,000

31





コオリガモ

10,000

27





○クロガモ

10,000

110





ビロードキンクロ

10,000

5





ホオジロガモ

1,000

40

70

52

ミコアイサ

1,000

20

440

42

ウミアイサ

1,000

50

170

29


カワアイサ

1,000

50

90

134

[注]

  1. 東アジア個体群の1%基準値は東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワークの資料による.
  2. 日本の越冬数の1%基準値は,ガンカモ科鳥類全国一斉調査(環境庁 1998)の全国の越冬数について,最近5年間(1994-1998年)の平均値の1%の値.
    環境庁自然保護局野生生物課. 1998. 第29回ガンカモ科鳥類の生息調査報告書. 環境庁, 東京, 345pp.
  3. 1999年2月7日のデータはワールド・ウェットランド・デイin 琵琶湖における取り組み『琵琶湖一周水鳥カウントライブ』の結果(滋賀県提供).種名ミスとみられる種は除いてある.またガンカモ類の総数は種不明個体を除くものである.

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