アジア水鳥センサス 1997-2001年報告書 |
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ウェットランド・インターナショナルは,英国スコットランドのエディンバラで開催されていた世界の水鳥の国際会議において,2004年4月4日,1997-2001年のアジア水鳥センサスの報告書を発刊しました.
記念すべき1冊目を,ラムサール条約,ボン条約,ならびに日本政府のそれぞれの代表者に,ウェットランド・インターナショナル事務局長のジェーン・マジウィックより贈呈しました.ラムサール条約事務局次長のニック・デビッドソン博士,ボン条約事務局技術主任のマルコ・バルビエリ氏,日本国環境省野生生物課国際チーム主任の蟹江 志保氏より,ウェットランド・インターナショナルのこのすばらしい活動とその成果に対して祝辞をいただきました.この式典は,ウェットランド・インターナショナル種の保全プログラム主任のワード・ハゲメイヤが司会進行し,同アジア地域事務所水鳥保全主任のデビッド・リが報告書の内容を紹介しました.
報告書の紹介にあたり,デビッド・リはまず,1000人におよぶ調査参加者に感謝の意を表わしました.これらの人々の参加支援があってはじめて,アジア水鳥センサスが成果を挙げることができ,そしてこの報告書をまとめることができました.
この報告書には,アジア地域の重要な湿地の現状とあわせて,水鳥の生息数とその分布についての最新のデータが示されています.
この報告書にまとめられたデータは,22か国の1392の湿地で調査されました.そのなかにはラムサール条約登録湿地が61か所含まれ,東アジア・オーストラリア地域の水鳥重要生息地ネットワークの参加地32か所,ならびに重要鳥類生息地(IBA)が含まれます.
合計で291種の水鳥(渡り性の種と留鳥性の種を含む)と,15種の湿地に依存するワシタカ類が記録されました.そして,2001年には450万羽を超える水鳥が数えられました.
報告書には,24種の世界的絶滅危惧種を含む,合計110の種についてその生息分布を地図に示されています.
この報告書は,湿地の保全管理に携わる管理主体や政府機関,国際条約やNGOなど,地元レベルから国際レベルまでひろく役立つように,これらのデータをまとめました.ラムサール条約事務局長,およびボン条約事務局長が序文を寄せられ,おのおのの加盟国に各国での湿地と水鳥の保全活動にこの報告書を役立てることを呼びかけています.このことはアジア水鳥センサスがいかに重要であるかを物語っています.
下に報告書のまとめを再録しましょう.報告書は英国自然史書店 Natural History Book Service (NHBS) (www.nhbs.com) より購入することができます.また,ウェットランド・インターナショナルのウェブサイトからダウンロードできます.報告書のダウンロードならびにアジア水鳥センサスに関する詳しい情報は次の英語サイトをご覧ください:http://www.wetlands.org/IWC/awc/awcmain.html.
アジア水鳥センサス(AWC)は1987年にはじまり,ウェットランド・インターナショナルが推進する世界水鳥センサス(IWC)の一環として,世界の他の地域,アフリカ,欧州,中央・西アジア,ラテンアメリカでの取組みとともに進められています.世界水鳥センサスは,動物相のモニタリング活動としては,この地球上で最も広くかつ最も長いあいだ取組まれてきたものです.
1987年にインド亜大陸ではじまりましたが,すぐにアジア・オーストラリア・ロシア東部までひろがりました.1987年以来,25か国の5700の湿地で少なくとも1回以上調査が行なわれました.
アジア水鳥センサスは,毎年1月の第二週から第三週にかけて実施されます.水鳥と湿地に関する情報を得てその保全に役立てようと考える多数の有志のみなさんによって調査が行なわれています.このセンサスで得られたデータは,地元レベルから世界レベルまで,さまざまな保全活動に活用されています.たとえば次のようなものが挙げられます.
水鳥の種や生息地の保全とそれらの調査研究,湿地環境の大切さの理解を深める普及啓発活動.
湿地や水鳥の保全に取組む国レベルでのアクションプランや国家戦略の策定,
ラムサール条約の基準を満たす国際的に重要な湿地の選定やその定期的なモニタリング,
渡り性水鳥とその生息湿地のモニタリングによるボン条約の実施,
生物多様性の保全とその持続的利用という生物多様性条約の目標にむかう活動,
東アジア・オーストラリア地域の水鳥の重要生息地ネットワークに登録された湿地をはじめとする湿地環境と水鳥のモニタリングを通した「アジア・太平洋地域渡り性水鳥保全戦略」の実施,
バードライフ・インターナショナルの重要鳥類生息地(IBA)プログラムの推進,
IUCN/バードライフの世界的絶滅危惧種プログラムの推進,ならびに,
ウェットランド・インターナショナルの世界の水鳥の個体群推定(WPE)プログラムの推進.
この報告書には1997-2001年のセンサス結果がまとめられています.
1997年から2001年に,22か国の1392の湿地で調査が実施されました.そのうち61か所は(2003年末日時点で)ラムサール条約に登録されている国際的に重要な湿地です.東アジア・オーストラリア地域の水鳥の重要生息地ネットワークに(2003年末日時点で)登録された湿地32か所を含み,またバードライフ・インターナショナルの(2003年末日時点での)重要鳥類生息地(IBA)43か所を含みます.
2万羽を超える水鳥が数えられた湿地には,10か国の82か所がありました.これは調査地数の6%にあたります.この82か所のうちの22か所(27%)がラムサール条約登録湿地であり,11か所(13%)が水鳥の重要生息地ネットワーク湿地でした.
数えられた水鳥の総数は,1997年 2,223,805羽(314か所),1998年 1,794,280羽(385か所),1999年 3,266,649羽(625か所),2000年 3,233,096羽(594か所),2001年 4,571,522羽(770か所)でした.
全部で水鳥291種と湿地に依存するワシタカ類15種が記録されました.その43%はアジア地域に分布が限定される種でした(水鳥126種とワシタカ類7種).最も多かった10種は,マガモ(2000年に489,652羽),ハシビロガモ(2001年に259,155羽),オナガガモ(2001年に237,105羽),トモエガモ(1999年に231,482羽),ヒドリガモ(2001年に207,936羽),コガモ(2001年に194,723羽),オカヨシガモ(2001年に188,631羽),オオバン(2001年に178,458羽),カルガモ(2000年に161,494羽),キンクロハジロ(2001年に160,280羽)の順でした.
バードライフ・インターナショナルが2001年に発行した「アジアの絶滅危惧種」に基づく世界的絶滅危惧種が37種記録されました.それらは,CR(絶滅危惧[1]A類)が2種,EN(絶滅危惧[1]B類)が11種,VU(絶滅危惧[2]類)が24種でした.これらのうちアジア地域に生息分布が限られるものは31種にのぼります.加えて,準絶滅危惧種が17種ありました.特に,集団性の強い次の14の絶滅危惧種についてはこのセンサスがその生息地の多くをカバーし,それらのモニタリングに重要な役割を果たしていることがわかります.それらは,ハイイロペリカン,コウノトリ,クロツラヘラサギ,カリガネ,サカツラガン,トモエガモ,カオジロオタテガモ,オグロヅル,ナベヅル,タンチョウ,マナヅル,ソデグロヅル,ズグロカモメ,シロエリハサミアジサシの14種です.これら絶滅危惧種については,今後もよりいっそうの注意を払う必要があります.合計で145種がボン条約の附属書に掲載されている種でした.そのうち35種は附属書Iの,10種が附属書IIの掲載種でした.さらに,ワシントン条約の附属書I掲載種が14種,同附属書II掲載種が14種記録されました.
2万羽以上の水鳥が生息する湿地に関する情報をまとめてみると,漁業や農業,家庭廃水や化学肥料による富栄養化とゴミ投棄などによる汚染や過度の土砂流入など,その結果としての植生の過繁茂といった,湿地とその集水域における人間活動が大きく影響していることが報告されました.また国際的に重要だと認められる湿地でさえ,部分的あるいは全面的な埋立事業が報告されたところがいくつかあったことに注意が必要です.このように湿地の利用状況や湿地の脅威となる状況について情報を収集することは,関係者の知見を高めるより包括的なメカニズムを提供し,また地元から国際レベルにわたる時宜を得た保全活動を可能にします.
調査には,各国の国内コーディネーターあるいは国内の地方コーディネーターが,それぞれの有志の参加を得て実施しています.これまでに22か国の1000人を超える人々が参加しました.
アジア水鳥センサスは,南アジア・東南アジア・東アジアの3つの地域を主にカバーし,オーストラリア地域もまた含みます.
南アジア地域(アフガニスタン,バングラデシュ,ブータン,インド,モルディブ,ネパール,パキスタン,スリランカ)
南アジア地域では649か所の湿地で少なくとも1回以上調査が行なわれました.アフガニスタンとモルディブ以外の国々から報告がありました.数えられた水鳥の総数は,1997年 508,030羽(126か所),1998年 504,480羽(194か所),1999年 1,005,325羽(285か所),2000年 576,278羽(164か所),2001年 2,372,849羽(327か所)でした.合計で173種の水鳥と14種の湿地に依存するワシタカ類が記録され,世界的絶滅危惧種(準絶滅危惧種を含む)は32種でした.
東南アジア地域(ブルネイ,インドネシア,ラオス,マレーシア,ミャンマー,フィリピン,シンガポール,タイ,東チモール,ベトナム)
東南アジア地域では299か所の湿地で少なくとも1回以上調査が行なわれました.東チモール以外の国々から報告がありました.数えられた水鳥の総数は,1997年 58,010羽(51か所),1998年 51,605羽(47か所),1999年 116,864羽(133か所),2000年 252,225羽(139か所),2001年 192,514羽(134か所)でした.合計で173種の水鳥と9種の湿地に依存するワシタカ類が記録され,世界的絶滅危惧種(準絶滅危惧種を含む)は30種でした.
東アジア地域(中国本土,台湾,香港,マカオ,日本,大韓民国,朝鮮民主主義人民共和国,モンゴル,ロシア東部)
東アジア地域では390か所の湿地で少なくとも1回以上調査が行なわれました.朝鮮民主主義人民共和国とマカオ以外の国と地域から報告がありました.数えられた水鳥の総数は,1997年 1,482,374羽(114か所),1998年 1,040,989羽(118か所),1999年 1,857,856羽(180か所),2000年 2,060,482羽(263か所),2001年 1,676,827羽(275か所)でした.合計で174種の水鳥と11種の湿地に依存するワシタカ類が記録され,世界的絶滅危惧種(準絶滅危惧種を含む)は27種でした.
オーストラリア地域(オーストラリア,ニュージーランド,パプアニューギニア)
オーストラリア地域では,オーストラリアからのみ報告があり,それは主にシギチドリ類の記録でした.55か所の湿地で少なくとも1回以上調査が行なわれました.朝鮮民主主義人民共和国とマカオ以外の国と地域から報告がありました.数えられた水鳥の総数は,1997年 175,391羽(23か所),1998年 197,206羽(26か所),1999年 286,604羽(27か所),2000年 344,111羽(28か所),2001年 329,332羽(29か所)でした.合計で82種の水鳥が記録され,世界的準絶滅危惧種が5種記録されました.
種の分布
比較的十分に情報が得られた110種を選んでその分布図を作成しました.その中には世界的絶滅危惧種24種と,準絶滅危惧種9種を含みます.
将来の方向性
本編第4章に2004年から2006年にかけての計画を概観しました.計画には,調査地の拡充,調査コーディネートと連絡体制の強化,調査技術を向上させるための研修活動,データベースシステムの改良,水鳥と湿地保全に関する政策決定の支援のための調査結果の活用,資金獲得方策といった点を盛込んでいます.
[英語原文:http://www.wetlands.org/news&/NewsItems/awc.htm
この和訳はウェットランド・インターナショナルの了解を得て
「東アジア地域ガンカモ類保全行動計画」のサイトにホストしています.]