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ガンカモ類重要生息地ネットワーク支援・
鳥類学研究者グループ:JOGA 第3回自由集会 基調報告2

カモ類の越冬地におけるつがい形成の意義

中村 雅彦・渥美 猛(上越教育大学)

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 渡り鳥の多くは、繁殖地でつがいを形成し、内部生殖器の発達、生殖ホルモンの分泌や雄による配偶者防衛行動も繁殖地でみられる。しかしながら、北半球に生息する多くのカモ類は渡り鳥にもかかわらず、内部生殖器が未発達で餌条件の厳しい越冬期につがいを形成する。求愛行動や雄による配偶者防衛行動も越冬地で観察され、産卵から数ヶ月も前のしかも越冬地におけるつがい形成は、他の鳥類とは異なるカモ類独特の生態のひとつとされている。

 カモ類の越冬地におけるつがい形成の意義については多くの仮説が提唱されている。もっとも優勢な仮説は雌利益仮説である。この仮説では雌はつがいになることで社会的地位を上げ、つがい雄による天敵からの防衛、独身雄からのセクハラ防止などにより採餌効率が上がることを前提としている。多くのカモ類では越冬地における雌の採餌量と体内に貯蔵される栄養量は比例関係にあり、さらに貯蔵された栄養量は一巣卵数などの繁殖パラメータに強い影響を及ぼすため、冬季つがい形成の意義はもっぱら雌の利益にあると考えられている。雌利益仮説に従えば、雄はつがい雌を数ヶ月にわたり独身雄や天敵から防衛することで、雌の採餌効率の上昇とは裏腹に雄自身の採餌効率の減少などのコストを伴うはずである。また、雌は独身雌の場合とつがい雌の場合では採餌頻度に有意な差が認められるはずである。

 長野県で越冬するオナガガモを独身雄、独身雌、つがい雄、つがい雌の4つのステータスに分け、それぞれのステータスごとに採餌時間、採餌頻度、水面の移動距離、求愛頻度、つつきの頻度を比較することで雌利益仮説の妥当性を検証した(Nakamura & Atsumi 2000)。その結果、つつきの行動からつがい雌は独身雌より優位と判断できたが、両者の間で採食時間(図1)や採餌頻度には有意な差は認められなかった。つがい雄は独身雄を追いかけたり、つつくことでつがい雌を防衛していた。つがい雄の採餌時間や採餌頻度は独身雄より多く、独身雄は主に独身雌に求愛するため遊泳距離は長かった。

図1 (11KB)

 オナガガモの雌にとっては、つがい雌になってから採餌効率を上げるより、独身雌の段階から一定の採餌時間を維持することのほうが繁殖成功を上げるために大きなメリットとなる。雌利益仮説の予測とは異なり、オナガガモの雄にとっては、つがい形成後の方が、求愛にかけるエネルギーと時間がなくなるため、採餌に長い時間をかけることができる。雌利益仮説では雌の利益に重点を置くが、雄にとっての冬季つがい形成の意義は、配偶相手の確保に加えて、採餌時間を増加させることにあると考える。

 カモ類は水面で採餌行動や求愛行動を行なうため、他の鳥類に比べこれらの行動を定量化しやすい材料である。個体数調査だけでなく、各種の行動をていねいに観察することで越冬する湖沼の役割、湖沼で繰り広げられる雄と雌の様々なドラマを観察できる数少ない種群といえる。

文献

[JOGA第3回自由集会「越冬地におけるガンカモ類の羽衣と社会行動」(その1) 2001年10月6日]

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このページは「東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワーク」公式ホームページ(http://www.jawgp.org/anet/)の一部です. 2001年9月21日掲載.