JOGA13
(2010b)
東アジア・オーストラリア地域渡り性水鳥重要生息地ネットワーク(ガンカモ類)支援・鳥類学研究者グループ:JOGA
第13回集会「希少亜種シジュウカラガンと大型外来亜種カナダガンをめぐる最新報告」
講演3
希少亜種シジュウカラガンの回復計画 〜復元・回復計画の経過、意義、今後の展開について〜
呉地 正行(日本雁を保護する会)
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(Ⅰ)アジア地域のシジュウカラガン羽数回復計画
日本へ渡来していたシジュウカラガンはかつて千島列島中部の島々で繁殖が確認されていたが、繁殖地の島へ日本政府(農商務省)により天敵のキツネが放獣されたため、その群れのほとんどが失われてしまった。その群れを復活させるために、アジア地域のシジュウカラガン羽数回復計画が策定された。この計画は5段階に別れている。
- 第1段階
-
- 1−a)
- シジュウカラガンの飼育施設の建設と種鳥の供給。
- 第2段階
-
- 2−a)
- 放鳥する島の選定。
- 2−b)
- 放鳥予定の島へ輸送・放鳥。
- 2−c)
- 渡り経路の学習を確認。
- 2−d)
- 同一個体が日本と千島間の渡りを繰り返すことを確認。
- 第3段階
-
- 3−a)
- 放鳥シジュウカラガン同士での繁殖を確認。
- 第4段階
-
- 4−a)
- 群れの維持必要な 1,000羽まで羽数増加を図る。
- 4−b)
- 中継地や越冬地でのシジュウカラガンの保護とその生息環境の保全・復元と啓発。
- 第5段階
-
- 5−a)
- 繁殖地の分布拡大。
- ・
- 放鳥した島以外で繁殖可能な島を探す。
- ・
- 放獣されたキツネを駆除し、繁殖可能な島を増やす。
- ・
- 繁殖条件が整った島々へ「野生」シジュウカラガンの群れを移送。
- ・
- シジュウカラガンが自力で繁殖地を拡大。
この中には既に目標を達成したものもあるが、手法の変更を強いられた部分もある。全体骨子の変更はなく、現在もこの計画に従い羽数回復の取り組みが行われている。
(Ⅱ)成果
繁殖地放鳥に基づく羽数回復計画を継続して実施することにより、成果が得られると共に新たな課題も明らかになった。
- 〔第1段階〕
- 1992年9月にカムチャツカに飼育施設が完成。繁殖用親鳥は、米国と仙台市八木山動物公園が提供(22,26)。
- 〔第2段階〕
-
- ・
- 1995年:エカルマ島での環境調査と放鳥事業開始。
- ・
- 1995−2000年:のべ 119羽がエカルマ島で試験放鳥(26)、その5羽が、日本へ飛来。いずれも若齢鳥(2羽が1歳未満、3羽が2歳未満)で、その4羽は、最も大きな群れ(33羽)で放鳥した鳥の一部。2歳未満の若齢鳥を大きな群れで放鳥すれば、渡りの可能性が高まることが示唆される。
- ・
- 2002年以降:本格的な放鳥開始。2歳未満の若齢鳥を大きな群れで放鳥。2007年までに新たに 346羽を放鳥。
- ・
- 2005年:放鳥した50羽の11羽が日本で発見。
- ・
- 2006年:放鳥した87羽の17羽が日本へ飛来。その7羽は2年続けて飛来。これは繁殖地の千島から越冬地の日本への渡り経路を学習したことを意味。第2段階の目標が達成。
- ・
- 2007/08年度には、これまで最多の20羽の放鳥個体が日本へ飛来。その7羽は3年連続、また別の6羽は2年連続して飛来。渡りの学習が一過性のものではないことを確認。
- 〔第3段階〕
- 2007/08年度には色足環標識の放鳥個体4羽と標識のない「野生」幼鳥7羽を含む11羽の群れを観察。その行動から、これらの鳥は1または2つの家族群の可能性が高く、放鳥個体が自然繁殖に成功し、幼鳥を連れて渡ってきた可能性が極めて高い。「放鳥シジュウカラガン同士での繁殖」をめざす、回復計画の第3段階の目標が達成に近づいた事を意味。
- 〔第4段階〕
- 冬の水田に水を張り、ガン類が生息可能な湿地環境を修復・復元・拡大する、「ふゆみずたんぼ」の取り組みが行われるようになった。またシジュウカラガンの稀少性を一般市民に対して働きかける取り組みが、積極的に行われるようになった。啓発用のパンフレットの発行、講演会、観察会などが開催、最新情報をHPで発信。
- 〔第5段階〕
- 繁殖地の千島列島では、放鳥を行っているエカルマ島の北東90kmのオンネンコタン島北部でシジュウカラガンが視認または鳴き声を確認。冬期間に同島の不凍湖でオオハクチョウと共に越冬しているシジュウカラガンの群れも観察。
これらの鳥は、エカルマ島で放鳥された群れの一部である可能性が高く、オンネコタン島にはすでに定着した群れがいることも示唆。繁殖地の分布拡大は、回復計画の最終段階の目標だが、それがシジュウカラガン自身の力で実現しつつある可能性が高まった。
(Ⅲ)今後の課題
- 放鳥したシジュウカラガン同士での繁殖開始の確認。
- 個体数を 1000羽まで増加させ、残された生息地の保全と失われた生息地を復元する。
- 繁殖地の分布拡大。
- 啓発普及。
[JOGA第13回集会「希少亜種シジュウカラガンと大型外来亜種カナダガンをめぐる最新報告」2010年9月18日]
URL: http://www.jawgp.org/anet/jg016e.htm
2010年8月28日掲載,JOGA.