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東アジア・オーストラリア地域渡り性水鳥重要生息地ネットワーク(ガンカモ類)支援・鳥類学研究者グループ:JOGA
第14回集会「東日本大震災の湿地への影響をガンカモ類などの調査を通してどう把握するか」
講演1
平泉 秀樹(ラムネットJ)
公開されている各種資料をもとに今回の震災による重要湿地の環境への影響を、要因別、地域別に整理して報告する。また、全国ガンカモ類生息地調査より津波影響域等の震災前のガンカモ類の記録状況を整理したので紹介する。
東北・関東にはラムサール条約登録湿地(以下、登録湿地)が5ヶ所ある。また三陸沿岸や仙台湾岸には登録湿地潜在候補地(以下、潜在候補地)が7ヶ所ある。特に、三陸沿岸や仙台湾岸の潜在候補地の多くが大きな影響を受けた。また、道東や関東の登録湿地や潜在候補地でも程度の差はあるが影響が報告されている。
この地域には潜在候補地が7ヶ所あり、それらを含め多くの湿地が大きな影響を受けた。津波により湿地の地形(蒲生干潟や松川浦など)、ベントス減少、内湾の藻場・アマモ場や依存する小動物への影響、ヨシ原の衰退(北上川河口部など)などが各地で報告されている。養殖筏(付着する海藻をコクガンなどが採食)の被害も大きく、陸域への津波の影響が少なかった松島湾でもほとんどが失われた。沿岸部では30cm〜1m以上の地盤沈下があり、干潟や潮間帯に影響を及ぼしており、養殖筏への影響が比較的小さかった万石浦でも影響が報告されている。また、沿岸部の水田地帯が広い範囲で冠水し、排水設備の被災もあって、耕作されない荒れ地が広範囲に出現している。沿岸部の下水処理場の多くは稼働停止し、簡易処理水が放出されているほか、気仙沼では石油の大規模流出があり、PCBや砒素、抗生物質などの流出もいくつか報告されている。
仏沼(登録湿地)には直接の影響はほとんどなく、越冬地になっている岩手県や宮城県の河口部のヨシ原が大きな影響を受けたのもかかわらず、オオセッカは昨年より繁殖個体が多かったとされている。
宮城県北部の、伊豆沼、蕪栗沼、化女沼は、最激震地にあるが、湿地への大きな影響は報告されていない。しかし、周辺地域では牧草や稲わらの高濃度汚染が発生しており、ガン類についても長期に及ぶ影響が懸念される。
利根川周辺などの低地帯では、振動やそれに伴う液状化によって農業用水路が破損して耕作されない水田が出現し、春の渡り期のシギ・チドリ類の利用には若干の影響があったようである(西川らが今回ポスター発表 P48)。霞ヶ浦稲波干拓のオオヒシクイ渡来地でも最も利用している区画の作付けは50%程度に留まっている。東京湾でも三番瀬等で干潟が縮小した可能性があり、海底地形が変化したようだ。東京湾ではアスファルト原料の流出がありカモメ類やスズガモなどに油曝鳥が確認された。
谷津干潟(登録湿地)は周辺の液状化被害により観察施設への影響はあったが、湿地にはほとんど影響はなかったようである。
道東の厚岸湖や野付湾(いずれも登録湿地)でも津波によるアサリなどへの漁業被害やアマモ場の減少が報告されている。
最近3年間の岩手・宮城・福島3県の沿岸部・浸水域での記録個体数をみると、コクガンとシノリガモは全国的にみて、ヒドリガモとキンクロハジロは地域的にみて、影響域での記録割合が高かった。キンクロハジロ以外は、藻場・アマモ場、それに依存する小動物や、養殖筏への依存度が高い種でもあり、大きな影響が及ぶ可能性がある。
大沼(仙台市)や阿川沼(塩竈市)は、仙台湾岸の水田域内でもハクチョウ類やカモ類の記録個体数が多く、今後モニタリングしていく上で重要な調査地点と考えられる。
[JOGA第14回集会「東日本大震災の湿地への影響をガンカモ類などの調査を通してどう把握するか」2011年9月17日]
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URL: http://www.jawgp.org/anet/jg017a.htm
2011年9月8日掲載,9月15日更新,JOGA.