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東アジア・オーストラリア地域渡り性水鳥重要生息地ネットワーク(ガンカモ類)支援・鳥類学研究者グループ:JOGA
第14回集会「東日本大震災の湿地への影響をガンカモ類などの調査を通してどう把握するか」
討論資料
(メモ作成 須川 恒)
[JOGA14]
東日本を襲った甚大なエネルギーを持った地震・津波による広域的な環境への影響は、国・地方自治体・研究機関が作成している様々な分野の情報を注目することによって判ってくる。水鳥を通してこの影響を把握する上では、ラムサール条約条約湿地(登録湿地)や潜在的な重要な湿地(日本の重要な湿地 500)への影響に注目し、広域的情報に加えて地元調査者の情報によってその実態を把握することが大切である。
宮城県の実情の紹介によって判るように、現地に住んでいる者は、さまざまな形で震災の被害を受け、生活上の多くの問題を抱えつつ調査を進めていかなければならない。目に見えない放射性物質については、広域的・地域的に様々なスケールの情報を集め、また、自分で地域の放射能の強さを計るという姿勢が欠かせない。
越冬するガンカモ類は、震災のあった3月11日は越冬末期であり、震災の影響に関する観察は限られたものであったが、来冬の動向を考える上でヒントとなる事例がいくつかあった。
来冬の全国への渡来総数(一部の種においては成幼比)は、きちんとした調査を行うことができれば判る。渡来総数の規模に大きな変化がないか、ないとしても昨冬と同様の越冬分布をするかどうかを注目したい。いくつかの変化があるのではと予想されるが、さまざまな要因との関係を検討することによって、その原因を解明することができる。今回明らかにされた広域的なさまざまな要因が、来冬の時点でどのようになっているかを把握するとともに、広域的に把握しにくい、ポイントとなる要因に関しては、ガンカモ類の分布調査と並行して入手しておくことが望まれる(参照:鳥インフルエンザがらみで給餌の対応情報を収集した)。
水鳥の個体数や分布にはそれほど大きな変化が検出されないことも予想される。水鳥を通して、湿地そのものの回復力を知ることができるかもしれない。あるいは、変化した湿地に対応して、渡来した水鳥が分布や生態を変化させて生息する実態が把握されるかもしれない。
湿地や水鳥の保全や保護にかかわるさまざまなプログラムは、震災による湿地や水鳥への影響を把握する上で活用し、また再評価されるべきである。これらのプログラムは国や自治体、水鳥に関係する多くの人々の協力で育てられてきた。ラムサール条約湿地や潜在重要湿地の湿地目録(日本の重要な湿地 500)、全国ガンカモ類生息地調査、モニタリング1000ガンカモ類、同シギ・チドリ類などについて、調査を進める上でのさまざまな課題を認識し解決する必要がある。
生物多様性条約COP10の場で生物多様性を保全するうえで水田の生態系が果たす役割を喚起する決議文が採択された。水田の冬期湛水は、津波による塩害を除塩する効果もある。ガンカモ類の採食環境としても重要な水田環境であるが、震災や津波の影響によって水田耕作そのものができなくなっている地域も多く、ガンカモ類の生息状況が変化する可能性がある、一方で地盤沈下などにより、海岸湿地のいくつかは干拓前の「明治前」の状況にもどっている地域もある。ガンカモ類とシギ・チドリ類の生息状況を比較しつつ震災の影響を見る視点が重要であろう。
[参照]
自然の撹乱に対して自然は回復する力をもっているとはいえ、原子力発電所の事故や核廃棄物などがもたらす長期的影響はその限度を超えていると言えるだろう。原発事故の影響については、以下の自由集会がある。
[JOGA第14回集会「東日本大震災の湿地への影響をガンカモ類などの調査を通してどう把握するか」2011年9月17日]
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URL: http://www.jawgp.org/anet/jg017d.htm
2011年9月14日掲載,11月8日更新,JOGA.