近年,生物多様性を保全すると共に,人と生き物との接点を提供するために,生物の生息空間を人為的に創出する「ビオトープ」事業が全国的に展開されています.その流れの中で,農業生産空間が多様な生き物の生息の場であることが見直され,特に森林−水域複合生態系を有する中山間地での「ビオトープ」事業が注目を集めています.これらは主に,減反政策の一環で増え続けている中山間地の休耕田を利用したものが多いのが一つの特徴といえます.しかし,低地水田や稲作が継続されている水田での共生型ビオトープの事例は少なく,今後の課題となっています.
冬期湛水水田プロジェクトは,夏は水稲が営まれ,冬にはガンの生息地となる,まさに農業共生型ビオトープの好例といえるでしょう.湛水水田プロジェクトの実施には,農家や地元住民のほか,行政,企業,NGOなど様々な主体の参画と協力が不可欠です.プロジェクトの拡大には多大な労力が必要ですが,じっくり時間をかけながら多くの人々とのつながりを築き,ガン類をはじめとした生物の生息場所を徐々に広げていく「農業共生型ビオトープネットワーク」の構築は,21世紀の農業形態の一つとして,また生物多様性保全の一戦略として,今後その重要性が増していくものと期待されます.