環境省主催のモニタリング1000として鳥類の計画が2004年度より開始され、ガンカモ類、シギ・チドリ類、陸鳥類、海鳥類について継続的な調査が開始される。ガンカモ類のモニタリングは、国内の湖沼や河川などの湿地の質的変化を長期的にモニタリングする観点からも重要であると考えられ、日本鳥類保護連盟・雁を保護する会や各地の観察者の協力で調査が開始された。
本自由集会では2004年度調査として得られた結果の概要を報告し、今後の課題を整理する。
実際に調査を実施してみると、連絡体制の不備などから、当初の計画の意図が各地の観察者に充分に伝わらずに、順調に行われていない部分が多くでてきた。
とりまとめ担当者よりどのような問題点がでているかを紹介し、今後の調査を円滑な実施するために皆様のお知恵を拝借して検討したいと考えている。
テーマ「ガンカモ類の個体数の継続的調査 モニタリングサイト1000 − 2004年度の報告と課題」
ガンカモ類のモニタリングサイト1000は試行調査を実施中の段階です.
企画者 村井 英紀(日本鳥類保護連盟)・呉地 正行(雁を保護する会)
共催 ガンカモ類重要生息地ネットワーク支援・鳥類学研究者グループ(JOGA)
日時 2005年9月16日(金)1830−2030
信州大学旭キャンパス(松本)共通教育センター13番教室
(16−19日に開かれる日本鳥学会2005年度大会の中の自由集会M2として開催)
内容(それぞれのタイトルならびに掲載の要旨はいずれも仮のものです.)
『重要生態系監視地域モニタリング推進事業(モニタリングサイト1000)について』澤栗 浩明(環境省) [⇵要旨]
平成14年3月に策定された「新・生物多様性国家戦略」に基づき、環境省生物多様性センターでは、これまで30年間実施してきた自然環境保全基礎調査とともに、全国の生態系を長期的にモニタリングする「モニタリングサイト1000」を、平成15年度より5年間で、計画策定・開始していきます。
1. 目的
生物多様性条約締約国会議においても、「世界の各国で自然環境保全施策を実施する際に、科学的データが不可欠」であることが指摘されています。我が国では、日本各地に生息、生育する動植物やその生息・生育環境等を、長期的にモニタリングすることによって、各生態系ごとの基礎的な環境情報を集めます。それら環境情報を継続的に蓄積することによって、生物種の減少や、生態系の変化等問題点の兆候を早期に把握することができ、生物多様性の保全のための対策をとることができます。
2. 調査概要
モニタリングサイト1000では、日本全土での自然環境の変化を把握するために、全国的に分散して、森林、里地、湖沼、湿地、河川、海岸の様々な生態系を網羅的に全国1000カ所程度を目安に、調査サイトを配置していきます。
それぞれの調査サイトでは、各生態系のタイプごとに、適切な調査項目を設定して調査を行います。
3.調査サイトの配置
調査サイトは、我が国の代表的、もしくは典型的な生態系を考慮して選出するため、「新・生物多様性国家戦略」に基づく国土10区分等を踏まえ、森林、里地、陸水域、海岸など生態系ごとに、平成15年度からの5年間で、全国約1000カ所に配置する予定です。
4.調査期間
モニタリング調査期間は、我が国の自然環境の短期−中長期の変化を把握することに加え、生態系の構造的な把握にも資することを目標にするため、100年以上にわたる長期間継続することを目標としています。各調査成果は随時公表するほかに、約3−5年間ごとの総合的なとりまとめ・解析を行います。
5. 調査体制及び調査内容の公表
環境省生物多様性センターが、企画運営及び全体のとりまとめを行います。調査実施については、各調査内容毎に、調査団体等に協力をお願いしています。
調査データについては、現在、オンラインでのデータ登録、管理、公開等の機能を備えたモニタリングサイト1000情報システムを開発しています。
『ガンカモ類のモニタリングサイト1000の計画の概要』村井 英紀(日本鳥類保護連盟) [⇵要旨]
本調査の対象種は、沿岸や湖沼、河川等の水辺・湿地に生息するカモ科のガンカモ類(ガン類、カモ類、ハクチョウ類)です。日本では約40種(世界で約150種)が知られていますが、ほとんどが中国やロシアで繁殖し、日本や東南アジアで越冬する渡り鳥です。
なぜ調査するのか
ガンカモ類が生息してゆくためには、繁殖地と越冬地の保全だけではなく、渡りの途中で休息・栄養補給する中継地が必要ですが、それら水辺・湿地やその周辺における護岸整備や開発等によって環境が劣化してきたところも少なくありません。また、近年では、地球温暖化に伴う環境の変化等も指摘されています。ガンカモ類など多くの生きものが健全に暮らしてゆける環境を保全・維持していくことは、私たちが将来にわたって豊かで持続可能な生活を送るために必要なことです。
この調査によって、どんな鳥が、どこに、どのくらい渡来するのかが分かり、保全のための基本的な情報を得ることができます。渡来数や分布は場所毎に異なっていますから、長期的な変化と環境の変化を考えあわせることによって、原因の解明のための基礎資料となります。
対象サイト
日本や東アジアの種毎の個体数推計等に基づいて種の渡来数が一定基準を満たす地点や、将来に渉って追跡把握が必要と考えられる湖沼等の80サイトを対象としています。
全国共通の調査方法
全国共通の調査方法で長期的・継続的に把握するモニタリング調査です。調査時間は、各サイトでの行動に応じた適切な時間帯としますが、ガン類については塒立ち時の全数把握を原則とします。
調査時期
越冬期調査は、滞在が安定する1月中旬に原則1回以上の調査とします。一斉調査と兼用する場合もありますが、本仕様に準拠した調査が必要です。
渡り期(秋、春)調査は、各サイトに特有な種の渡来最盛期とします。渡来時期に幅があるため、原則2回以上の調査が必要です。
調査項目
①湖沼等調査
越冬期、渡り期ともガンカモ類全種を対象とします。サイトでの渡来状況、観察のし易さ・調査員の確保性等を勘案して観察範囲を分割し、定点を設定して種毎の個体数をカウントします。
②広域調査
越冬期、渡り期ともガン類、ハクチョウ類を対象として、湖沼等から数キロメートル圏内(半日程度で回れる範囲)にある主要な採餌地を調査し、群れの位置・範囲と種毎の個体数、環境タイプを把握します。調査は、原則として湖沼等調査と同一の日中に実施します。
③環境調査
サイト毎に、調査日時、天候、積雪(被度、積雪深等)、凍結(凍結の有無、開水面被度等)などの環境調査を実施し、主要な環境写真を撮影します。
また、サイトに影響する可能性がある開発等がある場合、その位置や内容、写真撮影等をします。
『2004年度調査結果の報告』村井 英紀(日本鳥類保護連盟) [要旨⎘(改訂版)]
調査地からの報告と見えてきた課題:
『宮島沼のケースより』牛山 克巳(美唄市) [要旨]
『ローカル(中海)からの視点での意見』神谷 要((財)中海水鳥国際交流基金財団) [⇵要旨]
- いったい、いくつやればいいんだろう調査・・・・
すでにモニ1000関係で別の調査をやっている。また、カワウ、希少動物など、県や市町村、環境庁の出先からの委託調査もあり、地方組織は、毎週末調査で、調査疲れが見られる。ほんとに百年続くか不安である。5年すら怪しい状態。
- それでも新しい調査にはやる気がいっぱい!!
その反面、疲弊しているにもかかわらず、新しい全国規模の調査には、やる気はある。わざわざ指定した範囲より広大な範囲をボランティアで調べる。しかし、これが持続するのかはなはだ疑問が残る。新しい別な調査が依頼されると、そちらに意識が行ってしまうでしょう。
- 広い湖沼では、人員の確保や、調査精度の均一性に疑問が残る。また、エリアの限定を行うと、ねぐらや餌場の変更があった場合に対応できない。
『琵琶湖をモニ1000ガンカモ類にとりこむ上での課題』須川 恒(琵琶湖水鳥研究会) [⇵要旨]
日本最大の湖、琵琶湖のガンカモ類をモニ1000に組み込む意義は大きい。日本野鳥の会滋賀支部が発足し、支部のメンバーが中心となり滋賀県野鳥の会と湖北野鳥の会の約50名が協力して、2004年度冬期より琵琶湖水鳥一斉調査を実施し、良い結果を出している。この結果の概要を紹介し、今後の課題を示す。
- 今後の予定:2006年滋賀県水鳥一斉調査,2006年1月7日から9日まで、予備日15日。
- 調査情報が多量(琵琶湖全湖岸だけでも220㎞)だが、モニ1000用のデータとして発信する上での負担は発生しないか。
- 滋賀県の諸団体と連携を持つ形がとれるか。
- 県のガンカモ一斉調査との関係(県→県猟友会中心の鳥獣保護員)。
- 調査が継続的に行われる見通しが必要(新しい調査員を地域で育てる必要)。
『2004年度において判明した問題点の検討』村井 英紀(日本鳥類保護連盟)・呉地 正行(雁を保護する会) [⇵要旨]
- サイトの把握目標(全数/部分)
サイト毎に調査員数がばらついていた。今後、全国的に調査精度等の統一を図りたい。
サイトへのアクセス性、観察の容易性のほか、調査のボランティア的な側面も勘案して、サイト間の調査精度等の統一を図りたい。例えば、広大なサイト等調査員の確保の観点からみて全数把握が困難なサイトでは、サイト内での過年の渡来域等を考慮してサイト内の代表的な範囲の把握(部分把握)を基本としたい。ただし、渡来動向の継続的な把握が重要と考えられるサイト(例えば分布の南限サイト等)、広域調査サイト等については、全数把握(全体把握)を検討する。
- 一斉調査結果との関係
冬調査はガンカモ類調査(一斉調査)を流用したサイトが多かったが、送られたデータは確認地点・調査範囲の情報が不明なものが多かった。モニ1000調査仕様に準じたデータ提供が課題である。
- 調査方法の周知等
調査未実施のサイト、情報の欠落サイト(確認地点・範囲の図示、環境写真等)などの現状と対策を検討し調査方法(マニュアル)の周知を図る必要がある。特に、今後の解析においては確認地点・範囲の図示が重要であるので、その点の意義を明らかにして、周知に努める必要がある。
『問題点解決のための提案』呉地 正行(雁を保護する会) [⇵要旨]
とりあえず考えられる問題点や、解決にむけての提案などを以下列挙する。
- モニ1000の全体的な目的や、鳥類にガンカモ類を含むモニ1000の趣旨や計画が広く伝わる工夫が必要である。とりあえずウェッブサイトを開いて、相互リンクを計ることが有効であろう。
- 既にガン類による調査から判ってきた成果を明らかにするなどして、ガンカモ類について長期的データを蓄積する意義について伝達する必要がある。
- GISを活用した情報蓄積や解析が利用されると思うが、種類と個体数を紙媒体で伝達する事に慣れた調査者が、GIS用の、特に地図情報をどのように伝えればよいかの点にとまどうことが多いのではないか。調査者とまとめる人の相互理解が必要。
- ボランティアで参加する場合、参加することによってどのような成果が見えてきたかが短期的にもフィードバックされることが重要である。そのためのしかけをどのようにすればよいかが課題。
- 長期的に見る場合に、新しく調査をできる人(体制)をどう育てていくかということも重要な課題であろう。
この集会は,日本鳥学会2005年度大会の中の自由集会として催されます.どなたでも参加できますが,大会への参加費が必要です(一般4,000円,学生3,000円,大会当日申込).参加されるかたは自由集会だけでなく,4日間の大会全体に参加され,意義深いものにしてください.プログラムや会場など大会の案内は,
日本鳥学会のHPに掲載されていますのでご参照ください.
このJOGAページは「東アジア地域ガンカモ類保全行動計画・重要生息地ネットワーク」公式ホームページ(http://www.jawgp.org/anet/)の一部です.2005年9月4日掲載,2007年9月17日更新(集会報告へのリンク追加).