テーマ「希少雁類復元・回復計画の経過と意義・今後の課題」
企画者 須川 恒・呉地 正行・鈴木 道男・佐場野 裕
日時 2006年9月15日(金)1800−2000
岩手大学キャンパス(盛岡市上田)農学部1号館2番講義室
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(15−19日に開かれる日本鳥学会2006年度大会の中の自由集会M1として開催)
次第予定
企画趣旨の説明
『シジュウカラガン・ハクガン復元計画の経過と課題』呉地 正行(日本雁を保護する会) [⇵要旨] [講演要旨⎘]
1980年代後半より日米が協力して宮城県でシジュウカラガンの越冬地放鳥による復元計画がはじまった。日露の関係がスムーズになった1990年代になってからは、日米露の3ヶ国が協力してシジュウカラガンに加えてハクガンの復元計画がはじまった。これらの経過の概要を紹介し当面の評価をおこない今後の課題について述べる。なお背景情報や計画の詳細は2006年に出版した「雁よ渡れ」(どうぶつ社刊)を参照されたい。
『江戸時代の図譜から見る希少雁鴨類の生息状況』鈴木 道男(東北大学) [⇵要旨] [講演要旨⎘]
希少雁鴨類復元計画の目標として明治時代以前に現在は希少種とされている雁鴨類がどのような生息状況であったかを把握しておくことが重要である。2006年に私が解説を書いて出版した江戸時代の博物学者である堀田正敦の『観文禽譜』(平凡社刊)から、江戸時代のシジュウカラガン・ハクガン・トモエガモなどの希少雁鴨類の当時の生息状況を紹介する。
『野生シジュウカラガンの羽数回復事業』阿部 敏計(仙台市八木山動物公園) [⇵要旨] [講演要旨⎘]
極東アジアで絶滅の危機にあるシジュウカラガンの羽数と渡りの回復を目指して、仙台市八木山動物公園・ロシア科学アカデミーカムチャッカ太平洋地理学研究所・日本雁を保護する会が共同で行ってきた、かつての繁殖地である北部千島列島のエカルマ島への、カムチャッカにある繁殖施設で増殖させたシジュウカラガンの放鳥事業結果について報告する。概要は以下のサイトを参照されたい:http://www.city.sendai.jp/kensetsu/yagiyama/topics/2006/10.html。
『東アジアにおけるハクガン復元計画の実施状況と今後の課題』佐場野 裕(日本雁を保護する会) [⇵要旨] [講演要旨⎘]
東アジアのハクガン個体群を復元する日米露の共同計画が1993年に立案され、ウランゲル島にあるハクガンの営巣コロニーより卵をアナディールに運んだ。計画の内容と1993年以降の実施状況と主な結果、及び近年増加傾向にある越冬個体数の経年変化を示し、それらを踏まえて今後の計画の方向性を議論したい。
今後の課題の論議他 [⇵議論資料]
希少雁類回復・復元計画の評価と課題 (たたき台まとめ 須川 恒)
回復・復元計画(および事業結果)の評価
⑴渡来数の増加
シジュウカラガンとハクガン共に対象とした鳥たちが越冬地まで渡ることが確認でき、これらの復元計画を開始して以来、日本への渡来数が漸増していることは、両種の回復・復元計画の成果として評価できる。アメリカ合衆国がシジュウカラガン羽数回復に30年を費やしたことからしても、極東アジアでも希少雁類の羽数回復には長期的視野でとりくむ必要がある。
⑵有効な回復・復元手法
回復・復元手法の計画については、他の先進事例やガンの生態的特性を活かし、最良と思われる方法を選択したが、実際に実践に移行する段階における制約で次善の策を選んだ。また参考事例がないものもあり、その検証を行いながら新たな手法の導入も行なってきた。現時点で有効と考えられる手法の整理が可能である。
⑶背景となる雁類情報の収集とモニタリング体制の構築
仮親方式を軸とした復元計画が動機となって、シジュウカラガンの仮親と想定したヒシクイ、ハクガンの仮親と想定したマガンに関しての知見が増加した。ハクガン関連調査では、1994年に伊豆沼で越冬するマガンへのPTTを含む標識調査で春季の渡り経路が解明されたことや、アナドゥリ低地・コリマ低地における調査で、北東アジアのガン類のついて得られた知見は多い。
また、越冬地でのモニタリング体制は日本国内ではかなり整い、ロシアや韓国についてもかなり情報網が整ってきており、それらが放鳥個体等の発見率を高めていると考えられた。回復・復元計画の課題(と提案)
⑴回復・復元手法のさらなる模索
回復・復元手法については、未だ最良の方法に辿り着いたとは言えない現状がある。今後ともより効果的な手法についての更なる模索が必要である。
例えばシジュウカラガンについては、宮城県に群でシジュウカラガンが渡来して越冬するようになれば、八木山動物公園飼育下繁殖個体を群れに同化させる越冬地放鳥を実施して加速するなどの計画が考えられる。⑵事業継続のための経済的支援の必要性について
事業継続にはカムチャツカにおける施設維持費などかなりの資金が長期的に必要であった。シジュウカラガン回復計画は、仙台市八木山動物公園の資金面・人材面での大きな支援により今年度まで続けることができたが、今後は別の形を考えなければならない。
⑶雁類を支える生息環境復元とリンクする
希少雁類復元・回復計画の意義を多くの人々に理解してもらうためには、希少雁類が多く渡来していた江戸時代以前の景観をリアルにイメージできるようなしかけが必要である。また、希少雁類復元・回復計画は、冬期湛水水田事業など、多様な雁類の越冬を支える農業環境を復元する活動とリンクする必要がある。
⑷国内的・国際的な広報の必要性
希少雁類復元回復計画については国内的に成果の全体をまとめたものが少なく、国際的にも1994年にフランス・ストラスブールで開催された Anatidae 2000 の分科会でとりまとめられて以降発信の機会がなかった。このことが中国など日本の近隣諸国からこれらの雁類について殆ど情報が得られていない背景ともなっているとも思われ、今回の講演内容の英文による発信などの努力が有益であろう。
参考情報「水鳥保全戦略からフライウェイ・パートナーシップへの移行」 [⇵資料]
アジア・太平洋地域渡り性水鳥保全戦略は東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAF)へ移行します
2006年9月7日 水鳥保全戦略国内事務局
((財)日本野鳥の会 自然保護室)アジア・太平洋地域渡り性水鳥保全戦略は、第Ⅱ期戦略(2001−2005)が満了する時期を迎えています(2006年末まで延長)が、アジア・太平洋地域における渡り性水鳥及びその生息地の保全のさらなる強化を目的とした新たな枠組の構築を目的とした「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAF)」に2006年11月初旬に移行し、同戦略は発展的に解消することになりました。
EAAFとは、同戦略を、2002年に南アフリカの首都ヨハネスブルグにおいて、国連主催により開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(通称ヨハネスブルグ・サミット/WSSD)において国際連携協力事業(WSSDタイプ2パートナーシップ・イニシアティブ)として登録し、国際的な位置付けがなされたものを、より充実させる形で発展させるものです。
同戦略からEAAFへの主な変更点の一つは、既存の3種群(シギ・チドリ類、ツル類、ガンカモ類)の重要生息地ネットワークを統合し、アジア・オーストラリア地域フライウェイに存在する、全ての渡り性水鳥を対象とする新たな重要生息地ネットワークを構築することです。これにより、いままで3種群に含まれなかった渡り性水鳥についても、EAAFの枠組の下で新たな保全の取組が可能となり、現在14ヵ国92箇所となっているネットワーク参加地の拡大が期待されています。
既存の3種群の重要生息地ネットワークの参加湿地については、参加主体(市町または都県)及び国の同意により、EAAFに基づく新たな重要生息地ネットワークに移行できることになっていますので、引き続き関係者の皆様のご協力をお願いいたします。
尚、EAAFへ移行した後も、日本国内においては既存3種群のネットワーク(まとまり)を継続していく予定で、東アジア・オーストラリア地域全体においても種群ごとの活動は継続される仕組みになる予定です(添付図参照)。
環境省自然環境局野生生物課提供資料アジア・太平洋地域渡り性水鳥保全戦略から東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(渡り性水鳥保全連携協力事業)への移行について(想定図)